「部下の明らかなミスを論理的に指摘したら、相手がふてくされて口を利かなくなってしまった」
「家族の約束違反を正論で責め立てたら、かえって激しい口論に発展してしまった」
日常生活や職場で、正しいことを言っているはずなのに、なぜか相手との関係が悪化してしまった経験を持つ方は少なくありません。
相手に非があるのだから、しっかり反省してもらうために徹底的に事実を突きつける。
一見すると筋が通っているように思えますが、対話において「相手を完全に論破する」ことは、信頼関係を壊す最も危険な行為です。
今回は、相手の心を離さず、素直な協力を引き出すための「逃げ道を残す対話術」について詳しくお伝えします。
正論で論破しても、相手の心は離れていく
私たちが人とコミュニケーションを取る上で、決して見落としてはならない人間の心理があります。
それは、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズも指摘したように、人間には「自分を重要な人物だと認めてもらいたい」という強烈な自尊心の欲求があるということです。
自尊心とは、その人の心の最後の砦です。
正論で追い詰める行為は、相手にとって「逃げ場のない檻に閉じ込められて攻撃されている」のと同じです。
結果として、反発心が芽生えたり、その場では黙り込んでも内心では強烈な不信感を抱くことになります。
人は「逃げ道を塞がれたとき」に全力で反発する
中国の古典『孫子』にも、「囲師には必ず闕(か)く」という有名な兵法の言葉があります。
敵を包囲するときは、必ず一箇所だけ逃げ道を開けておかなければならない、という意味です。
逃げ道を完全に塞がれた敵は、死に物狂いで反撃してくるため、包囲した側も甚大な被害を受けます。
これは現代の人間関係でも全く同じです。
- 「どうしてあんなミスをしたんだ?」
- 「言い訳をしないで理由を説明してくれ」
- 「前にも同じことを言ったはずだよね?」
このように逃げ道をすべて塞いで相手のメンツを潰してしまうと、相手は自分の存在価値を守るために、必死で言い訳を探すか、心を閉ざして対話を拒絶します。
自尊心が守られる場所に人は集まり、自尊心が脅かされる環境から人は離れていきます。
相手のプライドを守る「逃げ道」の作り方
では、相手に改善を促しながら、良好な関係を保ち続けるにはどうすればよいのでしょうか。
その答えは、「あえて相手に逃げ道を用意してあげること」です。
たとえば、部下が書類の提出期限を過ぎてしまったとき、いきなりミスを責めるのではなく、以下のように声をかけてみます。
「今週は他部署との調整も重なっていて、かなり忙しかったよね。手が回らなかったのも無理はないと思う。ただ、この書類は今日中に必要だから、どこを手伝えば間に合いそうかな?」
自分のプライドを傷つけられずに済んだ相手は、攻撃されたという恐怖を感じないため、
「いえ、自分の確認不足でした。すぐに仕上げます」
と、自分から素直に非を認めて前向きに行動できるようになります。
明日からできる最初の一歩
誰かに注意や指摘をしなければならない場面に出くわしたら、言葉を発する前に一呼吸置いて、次のことを自問してみてください。
正しさで相手をねじ伏せるのではなく、相手の尊厳を守りながら共に解決策を探す。
その温かい配慮こそが、周りから心から慕われ、揺るぎない信頼を寄せられる人の共通点です。
ぜひ明日の対話から、相手のための優しい逃げ道を一つ用意してみてくださいね。
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はちすゆうき(ゆきにいさん)
0-1起業家・エグゼクティブエディター。
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